“まとう”文庫本カバーとは、私が設計、デザインした「文庫本のための本革カバー」です。
表からは何の装飾もない、文庫にフィットする実にシンプルなカバー。
しかし、文庫本カバーはノートカバーと同じではない。文庫本には文庫本の装丁がある。
そこに気づくまでには重ねての試作が必要でした。
文庫本は表紙があって本がある。紙のカバーようにその本にあわせてぴっちりとフィットさせられない革のカバーでは、本を読むとき、手の中でどうしても滑るのです。それが凄くストレスでした。
それを解決するために、一般的なノートカバーとは違うアプローチのデザインが必要だったのです。
色々考えた末にたどり着いたのがこの内側のデザイン。
これが?と思うかもしれませんが、このデザインにすることでカバーと本がより自然に馴染みました。
その感触はカバーが本を覆っているのではなく、本がカバーを纏っているといえる違い。
だからこそ「まとう」という名前になりました。
そして、このカバーには、文庫カバーによくある「厚みの調整機能」はあえてつけませんでした。
作るのは簡単です。しかし、折り返しによるだぶつき、手触りの悪さもさることながら、折り返しを繰り返すとその部分の革はどうしても傷みます。
一方、調整できなければ当然だぶつきは出ます。ただ、厚み方向は左右に分かれますから、僅かな厚みは許容できます。
元々の依頼は18mmの文庫本。とのことでしたので、厚さ18mm±2mmくらいの本がほどよく納まる。そんなサイズに仕上げてあります。
また、革の切り口「コバ」はあえて着色仕上げをしませんでした。
本革製品は使っていればかならず角がスレ、毛羽立つこともあります。
そのときに、使っている方がトコノールで磨けば毛羽立ちを抑えられます。着色仕上げをしてしまうとどうしてもその作業の難易度が上がりますから、使っている方の手で手直しできるよう、コバは無着色で処理しています。
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“まとう”文庫本カバーの基本仕様
- 1〜1.5mm程度の厚みの本革製
- 厚さ18mm±2mmの一般的な文庫本にフィット
※それより薄い文庫本場合は背表紙にややだぶつきが出ますが入れることはできます。厚い場合は入らない可能性がありますので、ご確認の上で利用してください。 - コバ(切り口の部分)は無着色なので、すり切れなどにはトコノールで補修できます。
“まとう”文庫本カバーのギャラリー
“まとう”文庫本カバーは、たまに販売してます。
製作者がかなり気まぐれ。ハンドソーイングのオールハンドメイドのため数はできません。ですので、気が向いて作った在庫がある場合のみPayPayフリマにて出品しております。
厚み、色、革のオーダーについては…どうしようかな。相談してみてください。
ただ、「きまぐれ」出品は大判はぎれセット、タイムセール等…いわゆるアウトレット的な、安い仕入れで作っているのでなんとかその価格で出していますが、工数を考えると正直それでも赤字といっていいです。とてもその価格ではできません。
個人製作だからこそ、また希望の革のスポットの仕入れには上代/送料等、それなりにお金はかかりますので、ご理解いただける方のみご相談ください。
“まとう”文庫本カバー フリマサイト出品物に関する注意点
- 本革製品ですので、生体由来のの傷・シワなどがありますが、シワや傷は木材の木目、年輪などと同じよう「天然だからこそあるもの」です。そちらについては「作品に大きく支障がでるもの」以外はそのまま用いています。ご理解いただける方のみ、よろしくお願いします。
- 表示される色などは環境により異なります。色味の違いなどによる返品はできません。
- 修理対応等はお受けできませんのでご了承ください。ただし毛羽立ち等をなくすための補修作業工程についてのご相談(アドバイスのみ)はTwitterもしくはTwitterのDM等で御連絡ください。
販売中の“まとう”文庫本カバー
“まとう”文庫本カバー テクスチャのあるグレー
2021年12月製作
対応している文庫本の厚み:18mm±2mm
こちらの革もブルー同様、ちょっとお高めの本革鞄工房が不定期に販売してくれている1枚の大判端切れから切り出しています。
3枚目の写真、表面に大きめの傷跡がありますが、これを裏側に持ってくるかは悩みました。ただ、革が元々は生きていた素材である事の証として、そのままテクスチャとして取り入れました。こういった部分も楽しんでいただける方に、ぜひ。
既にご購入いただいた“まとう”文庫本カバー
“まとう”文庫本カバー 紺色っぽいブルー(売約済)
2021年12月製作
対応している文庫本の厚み:18mm±2mm
私がよく使っている定番のブルーです。こちらの革は、ちょっとお高めの本革鞄工房が不定期に販売してくれている1枚の大判端切れから切り出しています。
表面に大きめのシワがありますが、シワこそが本革の証。表情として美しいかなと思います。
“まとう”文庫本カバー 製作記
昨日のムーンプランナーシンデレラフィットカバーを妻が自慢していたら、義母から「文庫本カバー作って欲しい」という依頼を受けまして製作に取りかかりました。
「本にカバーを掛ける」
単純に同じだと思っていましたが、向き合ってみるとそうじゃないことがわかり、なかなか奥が深いなと思いました。
文庫本カバーの試作 その1
まずはノートカバーであるムーンプランナーシンデレラフィットカバーをリサイズしてAffinity Designerで作図、プリントアウトしてペーパープロトを製作。
サイズ的には問題なさそうなのでペーパープロトからレザープロトに以降。
レザープロトでは、出し入れ等を意識しすぎて差し込みに余裕を持たせすぎたため、本からの出っ張り部分がやや大きくて手持ちがよくない。
また、微妙に天地のマージンを取り過ぎたことで、おさまりの美しさがない等の問題がわかりました。
縫い代はほぼギリギリに取っているので内寸をコントロール。縫い代、菱目のコントロール・調整ができるのは先にパソコンで図面を引ききってしまうメリットですね。
よくある試作段階の失敗なので全く気にしないものの、やはり実物にしないとわからない部分があるので試作するのは大事。
むやみに試作しても今度は革を無駄遣いすることになるのでこのあたりのバランスは大事ですね。
文庫本カバーの試作 その2
試作1号のサイズをリサイズして試作2号を製作。今の形状でのフィッティングはほぼ完璧。出し入れにもギリギリの寸法。
しかし…。手触りがどうしても悪い…。
静的状態では問題がないけど、読む動作だといまいち。
試作1号でも感じたことではあったものの、リサイズでも解決しなかったので、根本的な解決が必要な問題のようでした。
「これでいいんじゃない?」という意見ももらったものの、どうしてもその一番使う場面で使いにくいのは解決したかった。
サイズ感はいい。何がどうしてそうなるのか。文庫本と再びにらめっこする。
文庫本カバーの試作 最終プロト
…何故手触りが悪いのか…読む動作では手触りが悪くなるのか。
数日悩んで、ふと気づいた文庫本とノートの違い。そしてそれを解決するためのアプローチ。
あとはそうすることによっておこるであろう別の問題の推測と解決。
図面を改修。内側はほぼ書き直してペーパープロトに取りかかる。
ペーパープロトでの調子は良い感じ。差し込みも思ったより問題は無い。
あとは中折れしにくいデザイン。切り出しの手間は掛かるけど、よくある台形角丸ではなく曲線系に。
改修した図面で革での最終プロトを製作。
形状を変更したことで挿入感がよくなり、よりフィッティングを攻められそうなので1mm以下での修正。
僅かでも小さくできると手持ち感がグっとよくなる。やっと人に出せるレベルに仕上がった…と思う。
この図面を完成版として、製作しています。